アディダス「FUTURECRAFT.STRUNG」から想像する次世代ランニングシューズの形

  • 2020.10.12
  • (更新日:2020.10.11)
  • コラム

ナイキのヴェイパーフライ4%から始まった新世代ランニングシューズの開発競争。現時点ではまだナイキが半歩リードという形ですが、先日開催されたロンドンマラソンからもわかるように、他のメーカーも戦えるランニングシューズを揃えてきました。

「厚底×補強材」これが新世代ランニングシューズの特徴ですが、どのメーカーもこの新世代ランニングシューズの開発に成功したことで、ここからは大きな進化が起こりにくい状態にあります。ですが技術はいつの時代も進化するもの。そこで、今回は次世代ランニングシューズがどのようなものになるのか、アディダスが発表した「FUTURECRAFT.STRUNG」から考察していくとしましょう。

Advertisement

コンピュータが個人に最適化したシューズを作る

今年発売されたAdizero Adios Proが話題になっているアディダスですが、それとはまったく違ったアプローチで未来のランニングシューズづくりに取り組んでいます。考え方は従来のオーダーメイドシューズに近いのですが、足の形や走り方を測定し、そのデータを最適なシューズを専用マシンで作るというアプローチ。

従来のオーダーメイドシューズは、足の測定を行い、足型に合わせてシューズ職人がジャストフィットのシューズを作るというものでしたが、アディダスが目指したのはシューズづくりを完全にオートメーション化することでした。専用設備で足の測定を行い、そのデータを用いてコンピュータが最適化を行って、マシンが自動でシューズを作ります。

まるで私たちが子どもの頃に描いた未来、それを実現させようとしているのがアディダスの取り組みです。すでにそのプロジェクトは動いており、アスリートのデータをコード化した革新的織物技術「STRUNG(ストラング)」が確立されつつあります。

STRUNGはアディダスが独自に開発した革新的な織物技術で、アスリートとランニングシューズのパフォーマンスをさらに向上させるために、1本1本の糸をアスリートのデータに基づいて個別に選別し、データマッピングによってあらゆる方向に緻密に配置します。これにより滑らかで軽い、繭に包まれているような履き心地のアッパーを形成します。

さらに解剖学に基づいて数千本もの高精度に製造された糸を組み合わせることで、必要な箇所に必要なサポート、屈曲性・柔軟性、通気性、快適性をもたらしてくれます。これらの技術により、かつてない最高のフィット感を実現します。

アディダスはこの技術を使ったランニングシューズを2022年に発売すると発表しています。

2年も先のことですが、これが次世代ランニングシューズのひとつのスタイルになることは間違いありません。現時点では短距離向けのシューズとして開発されていますが、マラソンシューズに採用される未来も検討されているはずです。

個性を活かすランニングシューズが作られる時代

ランニングシューズを開発するとき、まずコンセプトを決めます。どのようなランナーがどういうときに使うものなのか。これが決まっていないとランニングシューズは作れません。シューズメーカーは「どんなレベルのランナーにも合う」と宣伝しますが、これは売るための便宜であり、開発段階ではターゲットを絞ります。

このとき、どのような走り方をするランナー向けなのかについても決めます。フォアフットなのか、ミッドフットなのか。そのときの着地メカニズムがどうなっているのかも考えて解析を行い、ひとつの走り方に対して最適化していきます(メーカーにもよりますが)。

このときトップアスリートの走り方をモデルにすることがあるのですが、ランナーはそれぞれに骨格や筋肉の付き方が違います。走り方もそれぞれに違うので、そのシューズがあるランナーには最適でも、他のランナーにはまったく合わないということもあります。

走り方もそうですし、シューズの足型も合わなかったりします。その「合わない」を改善するためにオーダーメイドをしているのですが、ナイキのように市販品と同じものを契約ランナーに提供しているケースもあります。ナイキは科学的に速く走れる走り方の独自データがあり、それに適したシューズを開発しているため、シューズが人に合わせるのではなく、人がシューズに合わせる必要があります。

ただ、これでは自分のポテンシャルを発揮できるランナーとそうでないランナーに分かれてしまいます。世界トップクラスのポテンシャルを持ちながら、自分に最適なシューズがなかったために、世界の舞台で活躍できなかったとしたら、それはもったいないこと。これが新世代ランニングシューズの数少ない弱点のひとつです。

現時点では新世代ランニングシューズが成熟しておらず、オーダーメイドできる段階ではないため、しばらくはシューズに人が合わせるしかありません。それでもアディダスの取り組みからもわかりますように、いずれは「厚底×補強材」の新世代ランニングシューズをベースとし、オーダーメイドにより個性を活かすシューズが主流になるはずです。

Advertisement

10年後にはオーダーメイドシューズが当たり前になる?

オーダーメイドシューズというと、これまではトップアスリートだけのものでした。ですので、次世代ランニングシューズが個性を活かすためにオーダーメイドするものだったとしても、自分には関係ないと思っているランナーもいるかもしれません。

でも次の時代のシューズは、おそらく私たちでも手にすることができるようになります。

なぜならこれからは職人ではなくマシンがランニングシューズを作るからです。以前のオーダーメイドは職人さんの経験と勘が必要でしたが、これからはすべてをデータで取り扱うことになります。例えばシューズを作るマシンと測定機をショップに置いておけば、その場でランニングシューズができてしまいます。

午前中に測定して、ランチをしたり買い物をしたりしたあとにお店に戻ってきたら完成している。そんな未来だって期待できるところまでテクノロジーは進化しています。職人さんが何日もかけてシューズを作る必要がなくなるわけです。

しかもアッパーだけでなく、ソールも個人や種目に合わせて作ることができるので、100%オリジナルの自分だけのシューズができてしまいます。メーカーにしてみれば、ユーザーの囲い込みもしやすくなるので、シェア拡大につながります。自社で作って自社で売るので利益も高くなります。

もちろん、これができるのは開発費がふんだんにあるメーカーに限られます。アディダスが積極的にアピールしていますので、おそらく他の大手メーカーもすでに同等のテクノロジー開発に着手していることとは思いますが、また違った未来を描いているメーカーもあるかもしれません。

ただ、数年後には自分だけの1足が手に入る未来が待っているとすればワクワクしませんか?確定した未来ではありませんが、すでに次世代ランニングシューズに向かって各メーカーが動き出しています。数年後にやってくる新しいランニングシューズの波、期待して待つとしましょう。

コラムカテゴリの最新記事